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ユリウス・カエサル ルビコン以前(中)ローマ人の物語9 (新潮文庫)
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| ジャンル: | 歴史,日本史,西洋史,世界史
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読むにつれて塩野氏の考えも見えてきた
通勤電車の中で少しずつ読み続けて4ヵ月、やっと第12巻まで読み終えたが、最初は
カエサルだけで何冊もページを割く意味が理解できなかった。
しかし、塩野氏にとって停滞していた政治システムを変えるために出てきたという歴
史的意義と、目標遂行のために硬軟とりまぜた柔軟な対応で進めるカエサルの人間的
魅力が同時に描かれていて、すっかり引き込まれてしまった。
大半がガリア戦記に充てられるこの巻では、淡々とガリアでの戦が描かれているが、
読んでいても決して飽きることはない。繰り返し出てくる記述(たとえば主戦力の非
戦力化)などの戦法の説明も、すっかり私の頭の中に入ってしまっていっぱしの戦史
評論家気取りだ(笑)
また、ガリア人の気質とローマ人の気質の違いを考えると、今のヨーロッパ社会の
複雑さの根底を見る思いがする。同じイタリアでも北イタリアと南イタリアが違うと
地理で習った記憶があるが、「ローマ人の物語」を読んでそれがようやく理解できた
気がする。
ガリア戦記を分かりやすく叙述
40歳にしてようやく「起った」カエサルが、ローマ国境をはるかに越え、ガリア人の広大な土地(西はスペイン・イギリスから東はドイツ国境まで)の平定に乗り出します。
本巻のほとんどは、カエサル本人の著になる「ガリア戦記」をもとにしていて、章立ても戦役の1年ごとにまとめられています。私は原典(訳本)を読んでいませんが、毎年の戦役の様子がドラマチックに描写され、一気に読み進みました。
様々な部族で構成されるガリアの土地を、キャラクターの異なる部下を適材適所に使い、同時進行的に多方面で戦いを展開するさまは、まるで日本の戦国時代を思わせ、司馬「国盗り物語」を彷彿とさせます。
塩野氏は、カエサルの文章力を絶賛し、ガリア戦記を忠実に再現しているようですが、そこまで書かれたら「ガリア戦記」を読みたくなってしまいます。
とにかく、わくわくして読める一冊です。
執政官就任からガリア戦役の5年目まで
この巻では、カエサル・グラックス・ポンペイウスの三頭政治の密約が交わされてカエサルが執政官(コンスル)に就任する1年前の紀元前60年から、前執政官としてガリア属州総督に就任してガリア戦役も5年目となる紀元前54年までの期間が扱われている。
読後の感想として次の4点が印象に残った。
第一に、カエサルは「情報」の重要性を認識し、徹底的にその利用を図ったことである。情報が価値を持つのは「古代」においても同じであった。むしろ、情報入手の手段が限られているだけあって現代以上に重要な意味を持つ場合も多かった。彼は、元老院の会議録を公開して市民の批判に曝すようにしたり、政治や戦場における敵に関するさまざまな情報を集め適切に対応した。
第二に、カエサルの用意が周到で鮮やかであることである。農地法を通すためには執政官となる必要があり、そのためには政治的な足場を固めておく必要がある。その足場を固めるために、仇敵関係にあったポンペイウスとグラックスを秘密裏に味方に引き込むなどはその最たるものであった。この政治上における用意周到さは、戦場においても遺憾なく発揮された。
第三に、カエサルの知的好奇心が非常に高いことである。著者の塩野さんがたびたびに渡って指摘していることだが、カエサルの『ガリア戦記』には敵となったガリアの諸民族やゲルマン、ブリタニアの文化、風俗、宗教、家族、教育、環境などのことに関する記載が豊富だ。これらの情報は、敵方に関する情報収集の一環として集められたものと思われ、その意味では第一の点と関連するが、「どのような」情報を集めるかということについては収集する側の個性が出てくると思う。
第四に、どんな逆境におかれても、カエサルは弱音を吐かなかったことである。意思の力の強さを思わずにはいられなかった。
同業者としてのカエサル
カエサルのガリア戦記を ゆっくりと塩野がなぞるのが本書である。
戦記としての本巻の白眉は 英国上陸にあると思う。実際にローマ人で 英国まで攻め入ったのは カエサルが初めてだ。わざわざ海を隔てた国を目指したカエサルの覇気というべきか。チャーチルほどの人ですら このカエサルの侵略をもってして英国の歴史が始まったとすら言ったというのだから。
但し 読み物としての本巻の白眉は「ガリア戦記」というカエサル自身の著作への塩野の取り扱いにある。
塩野は キケロと小林秀雄の「ガリア戦記評」を 本巻で紹介している。キケロと小林秀雄にして 絶賛しているカエサルの著作について 塩野はすっぱりと言っている。
「私の書こうと試みているのは カエサルという人間である。そして 人間の肉声は その人のものする文章に表れる」
こういう事を喝破されてしまうと このレビューからして 我ながら読み直してしまうほどだ。
塩野はカエサルへの片思いで本巻を書いている。塩野は カエサルのやったことではなく カエサルという「人間」を書きたいと言っている。これは もはや愛の告白ではないか。そんな 塩野が 著述家としての同業者である ガリア戦記の著者カエサルを見つめている姿が見えてくるようではないか。
カエサルの大活躍
この巻で一番印象的なのは、カエサル自らが記した「ガリア戦記」の文章の素晴らしさだ。著者も絶賛しているが、カエサルそのものを文章で描いた並居る巨匠たちもこのガリア戦記の期間中のカエサルはカエサル本人のガリア戦記にはとても適わないと思ったのか手をつけていないのが面白い。それほどカエサルの文体は洗練されていたようだ。
カエサルの部下の使いこなし方、兵糧の確保の仕方、全てが現在の実社会でも参考になることばかり。
血なまぐさい戦争をドーバー海峡を渡ってまで仕掛けていく戦闘の様子と、それと並行してのローマでの政治的変遷、カエサル、ポンペイウスの立場の変化などが克明に描かれていき早く次の巻をめくりたいという思いで本書を閉じる。
新潮社
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